こんにちは!Dr ニーアです。

本日は医者のフリーランスについてです。

最近、時々、フリーランスドクターとかフリーランスの先生とか聞くことはないでしょうか?

以前の記事でもお話しましたが、私は『勤務医』として病院に勤めており、それに対するものが『開業医』であるということをお話しました。

では、フリーランスとはどこの区分に入るのでしょうか?
そこにはまず、勤務医における常勤医と非常勤医を知る必要があります。

常勤医

ドラマで良く描写されますが、重要な役柄の人が持病をもっているという設定があると、必ず

・主治医の外来受診風景
・入院して病室に主治医が訪れる描写
・手術室で執刀する描写
・退院を見送る描写
・容体悪化時に治療する描写
・お亡くなりになるときに寄り添う描写・
・時にプライベートで会う描写

という風に、ある程度お決まりのシーンがあります。

この時、いついかなる時も同じ医者が対応しています。
これは勤務医の中でも『常勤医』の主治医をイメージしたものです。

現実でも、入院すると主治医が決まり、その主治医の先生の言うことを聞き、主治医の先生とお話をして、治療方針を決定していく。外来では主治医の先生の外来に通う。

この常勤医が日本における医者のイメージになっています。

非常勤医

『非常勤』の医者というものに馴染みがあまり無いと思いますが、常勤と非常勤は単に契約上の違いで明確に区別されます。

常勤医でなければ非常勤医です。

厳密には違いますが、常勤医が週5日同じ病院で勤務する一方、週1~2日、場合によっては週3日だけしか同じ病院で働いていないという状態です。

また、働く時間も常勤医が9時-17時という勤務時間に対して、午前のみとか午後のみという事もあります。

非常勤は少し、柔軟な働き方になっていることが多いですが、それは病院との契約内容によって様々です。

そして、フリーランスはこの非常勤の医者という定義に入りますが、厳密には同じではありません。

まだまだ良く知られていないフリーランスの実態について勤務医の立場から説明します。

医者の『フリーランス』とは

2019年10月から、米倉涼子主演ドラマ「ドクターX 外科医・大門未知子」の新シリーズが始まりました。

主人公は外科医ですが、今回のテーマでもある『フリーランス』の外科医という設定です。

日本のドラマは王道の医療系ドラマも好まれますが、時にこのような世間のイメージから外れた医者像を描くことも好まれます。

上でもお話したように、非常勤の医者が全てフリーランスというわけではありません。

フリーランスの定義は実は明確ではなくて難しいのですが、あえて表現するなら、

『1つ、もしくは複数の病院で勤務し、いずれも非常勤扱い』で働く医者

となります。

意外に思われるかもしれませんが、常勤として大学病院や市中病院で勤務していても、他の病院に『非常勤』として勤務することがあります。

この場合は常勤医が『アルバイト』をすると言われることもあります。

私の場合、週4日を常勤で勤務し、週1日非常勤として他の病院で勤務します。

大学病院の大学院生などは週3日臨床業務、週1日研究日、週1日を非常勤勤務などという働き方の人もいます。

ただし、いずれも常勤医が週1回アルバイトをしているということになります。

これに対し、例えば週1日は非常勤でA病院に勤務、週2日は非常勤でB病院に勤務、残り4日は休み、の場合はフリーランスと呼ばれることが多いです。

医者の『フリーランス』はなぜ増えてきたのか?

現在、フリーランスという働き方が増えてきた理由はやはり医局の影響力が弱まったことによります。

かつて、大学病院と市中病院は非常に密接な繋がりがありました。例えるなら、親会社と子会社の関係であり、親会社の中に医局という、教授をトップとして役職によって決まるヒエラルキーの制度があります。

医局制度は親会社から社員(医局員)を子会社に派遣し、勤務させるという人事の面において非常に強い力を発揮しており、医局の意向に沿わずに自分で職場を選ぶことは殆ど不可能でした。

そしてその人事は全て親会社である大学病院の医局長(人事係)が教授(社長)の意向を伺いながら決定していました。

つまり、医者は医局員として働く以外の選択肢が無く、医局員となれば、教授の意向で働く場所を決められ、市中病院と大学病院など色々勤務先を変えていき、医局の中で自分の役職を上げていくことが普通でした。

しかし、15年ほど前に施行された「新医師臨床研修制度」によって、今までは卒業後に無条件で医局に入っていた医者が、2年間の初期研修を受けて専門家を決定するという期間ができました。

この制度は実は医局に取っては大打撃で、まず、卒業生が完全に2年間医局に入らないという空白の期間ができたこと、そして、2年間の初期研修を終了しても大学の医局に入局せずに、市中病院に残ってそのまま勤務を続ける医者が一定数いたという、いわば二重の人材不足に陥る要因となりました。

結果として、今まで大学病院と市中病院で循環させていた医局員の流れが滞るようになりました。

そうなると困るのは市中病院です。

今まで派遣してもらえていた医者が人手不足を理由に大学病院に引き上げられてしまうからです。市中病院としては病院を存続できませんから、自力で医者を採用する方向に向かいました。

これが、市中病院での独自での勤務医採用及び、非常勤医の雇用です。そこから、フリーランスの医者が増えてきていると言われています。

『フリーランス』のメリット

時間の制約が少ない

一般的には、常勤医は激務であることが多く、日勤のみならず、そのまま当直、翌日も通常勤務をする病院も多いです。科によっては緊急対応が必要な患者も多く、昼夜問わず呼び出しや対応を求められ、体が休まるときもありません。

しかし、フリーランスは基本的に日勤のみであったり、逆に週1~2日の当直業務のみであったりと連続長時間勤務をすることはほとんどありません。また、呼び出しや緊急対応もほとんどない契約が多く、常勤医よりも体や生活に与える影響は少ない事が多いです。

勤務医よりも高収入になることがある

フリーランスの給料は一律ではありません。病院との契約次第というところもありますが、腕の良い医者に対して更に給料が上がることが良くあります。1日で10万円を超えることもあります。

もしも、10日働けば、単純に月給が100万円ですから、これは通常勤務しているよりも短時間で、より高収入になる可能性があるということです。

しがらみにとらわれない

勤務医はやはり、上司と部下の関係が非常に根強いです。内科や外科は徒弟制度と言っても良いくらい、上司のいう事が絶対で、医局はその究極の形になります。人事すら医局の思いのままです。

フリーランスは人事を含め、そのような事を考える必要がありません。自身の出世も、人事も、給料も関係ないため、理不尽な指示を受けることや、雑用業務をする必要もないのです。

『フリーランス』のデメリット

働く場所は限定されている

全国の多くの場所でフリーランスのニーズはあります。しかし、実際に条件の良い病院は既に他のフリーランスの人間がいる可能性もありますし、一般的に人気のある病院はフリーランスを雇う必要もありませんので、必然的に、常勤医には“不人気”な病院でしか働けない場合もあります。

収入が安定しない

勤務医は基本給というものがあり、休んでも年休の範囲であれば収入が減ることはありません。

しかし、フリーランスであれば、働いた分が収入になりますので、働けない日があれば収入は減ります。また、雇用形態も不安定で、年単位の契約であっても1年更新がほとんどであり、仮に、常勤医が十分に確保できれば病院から契約更新をされない可能性もあります。また、同じような条件でも、病院への貢献度が低いと判断されれば、他の非常勤医が採用されて職を失う可能性もゼロではありません。

技術、知識が向上しにくい側面がある

フリーランス医師は常勤医よりも能力が高い場合もありますが、私がこれまでお会いした人はそうではない人も数多くいます。

当たり前ですが、週5日勤務と週3日勤務では経験に差が出ます。また、複雑な症例は任されないことも多いです。その場合、技術の向上が困難となる可能性があります。また、大学病院や人気のある市中病院は人の行き来も活発で、最新の情報や技術に触れる機会も多くあります。自分が意識しない中で周りの影響で能力が上がるという効果はフリーランスの人には望めないかもしれません。

若いうちにフリーランスを目指してしまうと、医者としての技術は頭打ちとなる可能性がありますので、選択には十分注意しなければなりません。

専門科によってフリーランスとして勤務しやすいかどうかの差がある

ドクターXは外科医のフリーランスとして勤務していますが、一般的に外科医や内科医のフリーランスは現状では成り立ちにくい側面もあります。

一方で、麻酔科医や病理医、放射線科医などにおいては実は非常勤、そしてフリーランスの医者は他の科と比べて多いです。

その理由は『入院患者を受け持たない』ということが挙げられます。

入院患者がいる場合、例えば週3日しか働かないという勤務は難しいです。その他4日間は他の医者に任せるということになり、患者からすると毎日主治医が変わるという状態になってしまうからです。

しかし、例えば、麻酔科医においては手術における麻酔をすることが主な仕事であるため、手術をしたいが、麻酔をかける人がいない病院においては必要な存在となります。その場合、麻酔をかけるだけの1日だけの非常勤勤務が成り立ちます。

病理医、放射線科医も同様で依頼された病理組織診断、あるいは画像読影診断を勤務時間中に行ってそれが終われば終了となります。

そのような点でもフリーランスへのなりやすい科となりにくい科には差があります。

ただし、アルバイトで週1回勤務する外科医や内科医は沢山いますので、全くアルバイトが出来ないわけではありません。むしろ、週1~2回の検診業務や内視鏡検査勤務や手術の応援など、アルバイトは数多くあります。

あくまでもなりやすさに違いがあるだけです。

『フリーランス』の展望

フリーランスが働き方をフレキシブルにし、医者不足で立ち行かない病院を救っている現実もある一方でこれから先、フリーランスという『今まで通り』の働き方は難しくなる可能性もあります。

新医師臨床研修制度で広がった医者のフリーランスであるが、現在、フリーランスを制限しようという動きは全国的に広がりつつあるのです。

特に、専門医制度が新しくなったことはその動きの一つであると考えています。

制度変更の名目上は専門医として満遍なく経験を積み重ねることが望ましいためとしているが、その実は大学病院またはそれに準じる大きな施設、もしくは入局をしないと専門医の資格が取得できないようにして医者を医局の統制下におきたいという思惑も感じられるためです

麻酔科医においても能力の低いフリーランス麻酔科医がいい加減な仕事をしていると外科医からのクレームがついている病院も多くあり、麻酔科医学会がその対応を検討しているというお話もあります。

これからの時代はフリーランスを目指すも目指さないも個人の選択という時代であると考えますが、能力の低い医者は淘汰される時代も来るかもしれませんので、自身のスキルアップは常に意識することが必要であると考えます。