こんにちは!Dr ニーアです。
新型コロナウイルス問題で医療界が揺れている中、大学病院における(またもや)麻酔科医の論文捏造問題が明らかになりました。
今回は
●メディアで報道された内容
●繰り返される論文捏造
●医者の立場から
●最後に
をお話します。
メディアで報道された内容
7月に以下の記事が毎日新聞に掲載されました。
昭和大病院(東京都品川区)の教授と講師が連名で執筆した論文6本が撤回された問題で、日本麻酔科学会は、教授が学会常務理事を辞任したことを明らかにした。2人は連名の論文を100本以上作成しており、学会は調査委員会を設置して調査している。
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教授と講師が論文を投稿した学術誌の編集者からデータ不正の指摘があり、学会は3月に調査委員会を設置した。16~19年に日米の学術誌に掲載された6本が、「不正があった」などとして、既に撤回されている。さらに、別の米国の学術誌も論文1本の撤回作業に入っている。
毎日新聞
日本で繰り返される論文捏造問題
ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、論文捏造数世界一の記録保持者は日本人の医者です。
当時日本の麻酔科医であった藤井善隆は、投稿した論文の内、172報の論文が捏造と認定され、37報の論文が捏造を否定できないとされ、最終的に183論文の捏造認定を受け、世界一の論文捏造者として有名になりました。また、同様に麻酔科医であり、藤井善隆の共同研究者でもあった齋藤祐司も数多くの論文捏造を行っていたとして、共に日本麻酔科学会を永久追放されています。その他、論文捏造数上位10人の内、5人が日本人というまさに、『捏造大国・日本』と言っても差し支えありません。
今回、捏造を指摘されている昭和大学医師の論文発表数は多く、もしかすると捏造数ランキング入りしてしまう可能性もあるかもしれません。同じ麻酔科医として本当に恥ずかしい限りです。
尚、該当した麻酔科医の論文は臨床麻酔学会誌への投稿でも2編が該当する患者がいない可能性により撤回されており、国際誌のみならず、国内誌においても捏造が強く疑われる事態となっています。
医者の立場から
ある研究者の一言が未だに心に残っています。
『捏造をした人間はその時点で研究者としての人生は終わり。』
私としては捏造者は研究者としての人生のみならず、社会的な信用も失墜するものと考えています。
また、今回の論文捏造問題で特徴的な事として、臨床的に得られたデータを改ざんするという手法ではなく、架空の患者を作り上げ、その患者に対する治療介入に効果があったという、一から十までを全て空想で作り上げた手法でいくつもの論文が書かれている可能性が高いことが指摘されています。
もはや麻酔科医というより、フィクション作家です。
この麻酔科医は2020年6月中旬より麻酔科スタッフ名簿より削除されており、昭和大学は早期からこの問題の調査をしていたことがうかがえます。
今回の捏造問題の余波として、いわゆる、加担型論文捏造者が大量に生まれてしまいました。今回の加担型論文捏造者とは共著で名前を連ねている者、つまり、『共著者』です。共著者は捏造に直接的に関わっていなくとも、加担型捏造者として名前が公表される社会的制裁を受けます。ほとんどの論文に連名で記されていた昭和大学の前教授も退職されているようですが、その論文捏造問題と関係した退職であるかは現時点では明らかになっていません。その他、昭和大学病院では現在、この『恥ずべき麻酔科医』の論文に関わっていたがために学位が取り消しになったり、専門医試験が受けられなくなっているようです。まさしく、昭和大学全体が研究施設としての信用を失いかけています。
最後に
捏造をする人間の心の内はわかりませんし、わかる必要もありません。しかし、日本から捏造が無くならない理由として、論文の数やimpact factorで重要な地位や役職を得られる側面があることと、論文自体の正しさが検証されにくいという点にあります。ここから、捏造論文を大量に量産してもその真偽は確かめられにくく、かつ、正規の業績として認定されるということにつながります。これではいつまで経っても捏造は無くなりません。また、専門医試験や学位のために共著者に名前を乗せてあげる『名義貸し』行為も、加担型捏造者を生んでしまう元凶となっています。この構造を何とかするにはシステムの改善及び、共著者個人が必ず内容を検討する必要がありますが、しばらくは昔からの悪しき習慣は変わらないでしょう。
今回の事例において、共著者には一定の同情の余地があるとは言え、学位論文や専門医試験の点数のために用いた論文の真偽を自分が把握していないとは情けないことです。大学病院は研究をしている事を一つの利点として前面に押し出していますが、こんな様相の大学病院のどこが素晴らしいのか、私には答えることができません。