こんにちは!Dr ニーアです。
本日は東京女子医大のボーナス(夏季賞与)減額問題について、以下の内容でお話ししたいと思います。
●夏季賞与減額問題の始まり
●現時点の経過
●医者としての私の意見
夏季賞与減額問題の始まり
東京女子医科大学病院は新型コロナウイルス感染症による経営悪化を理由に、職員の夏季賞与を支給しないと発表し、それに対して労働組合が猛反発したという報道が7月上旬に報道されました。
同時に
『理事長室改装に6億円』
『看護師が400人程度辞める見込み』
『看護師が辞めてもまた補充すれば良いと病院側は考えている』
などの報道が行われました。
これに対し、世間より多くの同情的な意見が寄せられたのです。
具体例を挙げますと
『この病院のブラックっぷりがすごい』
『看護師を始め、職員を使い捨ての駒としか考えていない』
『設備投資ばかりで教職員を蔑ろにしている』
などと基本的には病院の体制に対する批判が数多く発せられ、マスメディアでもこの一連の騒動は大きく取り上げられる事態となりました。
現時点の経過
8月1日時点でこの問題は赤字ではあるが、資金が一部調達できる見込みが出来たとして基本給1か月分の賞与を出すとの発表がありましたが、依然として額が少ない、労働の大変さに見合わない、などの意見が多く出ており、その批判は病院の経営者側に向けられています。
医者としての私の意見
多くの大学病院にはブラック企業の側面がある
以前よりお話しておりますが、一般的に大学病院は元々、職員に対する待遇は特に給与面ではあまり良くありません。卒後10年目の医者ですら月に約30万円程度の給与という大学も少なくありません。また、看護師の給料はそれよりも低いことが普通です。そもそも、東京女子医科大学は2014 年に発生した小児プロポフォール大量投与医療事故による特定機能病院の認定取り消しを受けています。そしてそれ以降、大学理事会が職員の待遇改善を怠ってきたという問題が根底にあり、今回批判されたのは、特に医療者はコロナ禍により過重労働と精神的な負担が多かった一方で、逆に賞与がカットされるという事に対してこれまでの経緯と併せて不満が爆発したことがきっかけです。
コロナ禍で病院の収入は減っている
殊更、夏季賞与減額問題ばかりが取り上げられていますが、実際、コロナ禍により、確かにコロナ診療に関わる部署では過重労働と精神負担は増えておりますが、一方で、救急外来や一般外来、待機的手術、定期受診をする患者の絶対数は明らかに減少しており、その結果として多くの病院で収入が減少しているという側面があります。経済的側面で考えると、収入が減った事が人件費、つまり減給として反映されることは当然と言えば当然です。無いものを作り出すことはできません。
もしも医療業界以外なら
今回の問題を一般企業で考えてみましょう。ホテル業界、もしくは、航空業界が新型コロナの流行で経営が悪化したため、賞与が出ないとなると、世論はどのように反応するでしょうか?『経営が悪化しているならば賞与なしは当然』または、『その仕事を選んだのは自己責任』という意見が多くなるのではないでしょうか?経営者目線では東京女子医大が賞与を出せない理由は当然と言えます。それでも、医療者側に同調した意見が多いのは、病院の機能が落ちると多くの人が困るということが自分に不利益になると想像しているためです。
退職、転職は労働者の権利であり、自由である
一般的に労働者は職場に不平不満がある場合、職場を変わる事は普通に行われる権利ですので、本当に不満のある職員は是非待遇の良い職場を探すべきと考えます。しかし、コロナ問題で給料や賞与は色々な病院で減らされており、待遇改善になる場所がそんなにあるのかはかなり疑問です。勿論、限られた人数であればそのような病院も探すことは可能ですが、勤務先を変えて待遇が悪くなる可能性もあります。また、400人程度の退職も考えられているとのお話ですが、これはほぼ断言できますが、仮に夏季賞与が0となったとしても400人辞めることはありません。看護師同士の同調圧力をマスメディアが膨らませた数ですので、口で辞めるといっていても、現状、本当に辞める覚悟のある人数がその数という事は考えられません。
病院だけの問題ではない
これまでの病院の体制が悪いことが職員の今回の不満噴出の原因であることはそれほど取り上げられていないようです。また、収入の減った病院に税金を適正に投入して機能を維持するのは実際は政治の仕事であるため、政府が動かなければなりませんが、肝心の政府は見て見ぬふりどころか、マスク8000万枚追加支給に多額の税金を投入するという本当に考えられない税金の使い方をしています。世論の矛先は病院そのもののみならず、政府に対して伝えていく方が適正なのです。
医療界の新しい生活様式
新型コロナウイルス感染流行により、これまで『手に職がある』という理由で安定と思われていた医療界が揺らいでいます。今回の件のように、収入を労働単独に依存すると、このような事態に対応できません。複数の収入源をもつなどの自衛策が必要となっており、それは医療関係者も例外ではありません。これこそ医療界の『新しい生活様式』になるとことは間違いないと思います。