こんにちは! Dr ニーアです。
今回は医者にも訪れている働き方改革についてです。
先日、各病院に労働基準監督署からの査察が入りました。
今後、医療界は働き方改革とどのように付き合っていくのか、そのことについてお話していきたいと思います。
目次
1 医者の過労
2 働き方改革のきっかけ
3 医師の働き方改革に関する検討会
4 時間外勤務上限の設定
5 今後の医者としての働き方
1 医者の過労
医者の過労は歴史上、多くの問題を抱えていましたが、これまでそれはなかなか公にならないか、なっても一過性の問題として終わっていました。
現在の医療制度は大部分が医者の献身・自己犠牲の上に成り立たせている部分があります。
・大きな病院は24時間患者を受け入れている
・主治医として患者のことは昼夜問わず連絡が来る
・休日でも呼び出される
・担当患者がお亡くなりになるときは平日・休日問わず24時間いつでも主治医が呼び出され、臨終には立ち会わなければならないし、家族もそれを望んでいる。
・当直をし、次の日も普通に勤務をする。時に48時間連続勤務ということも。。。
以前の記事でも軽く触れましたが、膨大な時間を時間外勤務として働き、それらを時間外の給料で補っている現状があります。
要するに長時間勤務と高収入でバランスを取っている部分があるのです。
しかし、医療界以外でも色々な業界で過労が問題になっている現状、それを変えなければいけないという流れになっています。基本的には良いことではありますが、働き方改革の波に医療界が揺れていることも事実です。
そこには一筋縄でいかない現状もあります。
厚生労働省は『医療の崩壊を防ぐ』という名目があり。
労働基準監督署は『時間外勤務を減らさなければいけない』という名目があります。
しかし、この両者のバランスを取ろうとすると思わぬ未来が待っているかもしれません。
2 働き方改革のきっかけ
日本の労働環境は世界的に異常に長時間の勤務が義務化されており、過労による身体、精神の問題を引き起こしたり、過労死にもつながっていると指摘されてきました。
特に、医者はこれまで、連続36~48時間勤務や、休日の無い勤務でたびたび問題となりました。
長時間労働による弊害として医者の過労死や心の問題、また、例えば当直明けに外病院でのアルバイトに向かう途中に事故を起こして自身と他人を傷つける結果になったりと、過労は医者自身の健康及び医者としての働き方に多大な影響を及ぼしておりました。
勿論、医者の世界以外でも過労死はたびたび問題となっています。
これらの情勢の中、時間外勤務をいかに減らすことができるかということが語られるようになりました。
3. 医師の働き方改革に関する検討会
2017年8月2日に第1回の検討会が開催され、2019年3月28日まで実に22回の会議が行われ、報告書として公表されました。
報告書によれば日本の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働が前提となっているとし、
・自殺や死を毎週又は毎日考える」医師の割合が3.6%
・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)への関心が高まっている
・女性医師の割合が上昇している
ことを踏まえ、多様性のある働き方と時間外労働時間の短縮を達成するように時間外の勤務上限が設定されました。
それが以下の通りです。
勤務医は『年960 時間』
特定の医師は『年1860時間』
この適用は2024年4月1日から開始され、時間外を超えると施設に罰則規定が生じます。
4 時間外勤務上限の設定
診療従事勤務医(A水準)
まず、医者の時間外は非医療者と同等の「年360時間(月45時間)以下」とされました。
しかし、医療現場を知る人はわかると思いますが、非医療者と違い、予定の仕事を終えたらその日一日が終了することはまずありません。予定通りに事がすすむ日は年に10日も無いのではないでしょうか。
医療の特殊性を鑑みると時間外勤務は『緊急対応しなければならない勤務』がその多くを占めます。つまり、月45時間以下を厳守とすると、緊急を要する対応には全く時間が足りないのです。
これらを理由に、勤務医を『診療従事勤務医(A水準)』として『年960 時間(月80時間)』の時間外設定としました。そして、2024年に向けて、この時間内に収めるよう、各病院に通達を始めています。
一方で、特定の医師は『年1860時間』という設定となっています。
これは『地域医療確保暫定特例水準(B水準)』と『集中的技能向上水準(C水準)』の医者が対象となります。
地域医療確保暫定特例水準(B水準)
都心部に医者が集中している現状で医者の少ない地域においては少数の医者が時間外労働により、その地域の医療を支えているという現状があります。また、救急を多く受け入れる施設や、体の変調が生じやすい小児や産婦人科などもここに該当します。
よって、これらに従事する医者はA水準よりも長時間の勤務がなくてはその地域の医療が成立しません。
具体的には、「労働時間短縮への取り組みがある」「労働法令違反をしていない」医療機関を都道府県が特定認定します。対象は、
・2次救急病院+救急車総受入数1000台/年以上もしくは時間外入院件数500件/年以上
・3次救急病院
の中で
5疾病(癌、脳血管疾患、心血管疾患、糖尿病、精神科疾患)及び5事業(救急、災害医療、地域医療、周産期産科医療、小児)において積極的な役割を果たす医療機関
で勤務する医者
となっています。
集中的技能向上水準(C水準)
これは、新しく医者となった人や、専門分野を選択した人が対象となります。
具体的には
初期研修医や専門医プログラムにのった後期研修医、そして後期研修医以降でも、高度な専門技術及び知識の習得を目指す、もしくは有する医者
となっています。
勤務する地域や医者としての技能別に時間外労働基準が分かれる不思議な区分となっています。
現在、各病院ではA/B/C水準いずれに該当するかは関係なく時間外を減らす努力を継続していますが、中々効果的な方法を生み出せていないのも現状としてあります。
5 今後の医者としての働き方
医者となった後、今までのようにガムシャラに働き、その分給料を得る。私生活は犠牲にする。
そんな働き方は終わりを迎えようとしています。しかし、現状の医師の働き方改革に関する検討会が設定した時間外勤務にもいくつか問題があります。
B基準やC基準に該当する医者は『年1860時間』、つまり、月160時間の時間外勤務となります。これは過労死のラインとなる(月80時間)の2倍近くになります。そして、地域医療における医者不足を解消する方法に関しては未だ具体策がありません。終わりのない長時間労働として反対する声も多く聞かれます。期間が決まっているとは言え、C基準に該当する研修医においても過労死ラインをはるかに超えていますので、その働き方には注意が必要です。
それ以上に私が考える最も恐ろしい未来は、時間外の上限を月80時間とすることで、月80時間までしか時間外認定がされず、実際はもっと働いているにも関わらず、
時間外勤務が無かったことにされ、
給料にも反映されない
という事態が現実のものになる可能性があります。
日本の医療制度が変わっているわけでもなく、医者の自己犠牲を前提とする条件下で、時間外勤務のみが短縮された未来はもしかすると不幸な未来につながる可能性もあり、既に医者として働いている人や、今から医者を目指す人はこれらのことは考えておかねばなりません。