こんにちは! Dr ニーアです。
2019年11月23日に医学界で激震を生じたニュースが世間を駆け巡りました。
教授解任
旭川医科大(北海道旭川市)は23日までに、医学部の40代男性教授が医師を派遣した外部の医療機関に報酬を要求し、不正に多額の金銭を受け取っていたと公表した。男性教授は就業規則違反に当たるとして懲戒解雇処分となった。処分は15日付。
旭川医科大によると、男性教授は、派遣した医師に支払われる報酬額の確認作業名目で5つの医療機関から多額の報酬を受領したほか、要請に応じて医療支援を行うための待機にかかる名目で7つの医療機関から金銭を受け取っていたという。
また男性教授は、自身の管理下にある医師に貯金口座を開設させた上で、通帳などを渡すよう指示し、それらを保管して使用していた。大学が通帳の使用理由について問い合わせても、一切回答しなかったという。
引用:日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52544570T21C19A1CZ8000/
医療関係者の間では既に詳細な情報が流れており、解雇された教授の名前も知れ渡っていますが、現時点では全国的には公表されていないようです。
医学界では、不祥事が続きますが、特に大学病院での金品不正受給関連の不祥事割合は非常に多いのです。
あくまでも今回のケースについての詳細なお話をしていくのではなく、今回の不祥事からわれわれ勤務医が学ぶべき地域と医局の問題点があります。
地域医療の問題
今回の不祥事はまさに地域医療が抱える問題を反映しています。北海道と聞くと、札幌などを想像してしまいがちであるのが、道外の人間だと思います。しかし、その広大な面積の中で、殆どが実は山間部やへき地に該当する地域であり、その地域での医療はいわゆる『地域医療』になります。
医者は医師免許のお陰で日本全国どこでも医者として仕事ができます(どの病院でも自由に働けるという意味ではありませんが)。そのため、余程、その土地に愛着があるか、特別な理由が無い限り、生活の不便なへき地で働きたいと考える人は少ないのです。これが地域医療が抱える問題の一つです。
しかし、ここにはある方法で、医者を強制的にへき地で従事させる方法があります。
それが医局人事です。教授や医局長という立場の医師は医局員の人事権を握っており、ほぼ強制的に勤務先を決定することが出来ます。一方で、へき地の病院は、医局にお願いをして医局員を派遣してもらわなければ病院が立ち行かなくなります。ここに、大学病院と地方の病院における上下関係が出来てしまいます。
医局からすれば、当然、希望の無い医者を強制的に派遣し、かつ、その結果として大学の人員は手薄になるでしょうから、何らかの対価を求めるという方向になるのは容易に想像がつきます。その結果としての金銭・物品受給が裏で行われるというのは容易に考えられます。
教授になることのリスクと利益
若くして教授になるのは能力もさることながら、非常に多くの業績が必要です。
特に、臨床ではなく、『論文』の業績と『人脈』が必要になります。また、医局員として上からの命令も自分の意に添わなくても聞かなければなりません。それらが揃っても、教授選を含め、色々な戦いを勝ち抜かなければ教授にはなれません。
しかし、年単位で築いてきた地位も、このような不祥事で教授を解任されてしまえば、今までの努力の多くが泡となって消え、二度と重要なポジションには戻れないでしょうし、業績も偏見の目で見られつづけることになります。教授の道を目指すには、本当に品行方正である必要があります。
医局員であることのメリットとデメリット
医局員でいる限り、就職先は融通してもらえますし、業績の積み重ねで役職は上がっていきます。しかし、上司のこのような不祥事により煽りを受けるのもまた、医局員です。
医局の立て直しに時間と労力を割かれ、旧体制で得ていたポジションは場合によっては新体制では失われるかもしれず、また再度自分の立ち位置を確保しなければならない場面もあります。
普通の感覚では直近で不祥事があった医局に入局しようとする若手は減る上、トップの解任と共に医局を離れる人も出てくるでしょうから、確実に仕事量は増えます。日々の臨床に集中すべき医者にこのような余計な雑念が入ってくるのは、全く面倒なことではないでしょうか。
医局員としての立ち位置
悪いことはいつ白日のもとにさらされるかわかりません。繰り返しになりますが、医学界で生じている問題の多くに金品不正受給が関係しています。
そして、大抵の場合、自分の思うがままに人もお金も動かせる役職についている人がこのような不祥事を起こします。
医局から人が流出しつつある昨今、専門医制度を利用して強制的に医局に入局させるような動きも出ています。
しかし、こんな不安定な立場で、上司の意向を汲みながら、自分のやりたいことを我慢しながら医局員である必要があるのかについて、私はいつも疑問に思っています。